2016年07月07日

どうして喫茶店は老舗になるほど冷房がきいているんだろう。

おれは今、西日の差し込む部屋にいて、もぬけの殻のように床に横たわり、退屈な心と向き合っているところである。ボタンの一つ壊れた扇風機が、中くらいの風を巻き起こしている。あんなに楽しかったようなことが、そうでもなかったような気がしている。分かるかな、こんな気分。分かってたまるか。分かってくれよ。死んだ目をしているのかもしれないね、今おれは。

書き溜めていた日記を読み返し、ずいぶん長い間、ぽっかりと何も書いていなかったことを知る。カレンダーを見返し、記憶を辿って書き始めてみるも、どうも上手くその瞬間の気分に戻ることが出来ない。たくさんの場所で歌った。

HONEY MAKERとのツアーから尾道からはじまった仁義なき戦いツアーに戻り、紀州編。ほとんどバンドの10組が出演した大トリで弾き語りをして、アコースティックのライブとは思えないほどの盛り上がりだった。おれは肩車されフロアで叫ぶ。最前列では怪我人が出ないか心配なほどのモッシュが起こっている。強烈な夜だった。

新しいサポートドラマーとの顔合わせを兼ねたスタジオリハがあった。エレキギターを掻き鳴らすのが気持ちよく、トリオバンドも悪くないなと思った。そもそもレコーディングとライブは別物という考えのおれである。良い音で音楽を聴きたいのなら、音源を聴いてもらえればいい。ライブはあまりにも音楽を聴く以外の側面が強いように思う。その場その場で、一番歌が伝わりやすい方法があれば、それをやればいいのだ。そしておれはそれを選ぶ。伝わるんなら、カラオケでもいいじゃん。

和歌山ライブハウス大作戦の寄合があった。それぞれの考えを聞く。自分の意見を話す。地元ミュージシャン同士、より広い視野で、お互いに高め合えたらと思う。人と何かをやる時、自分の利害を考えてしまうのは、おれにも必ずある。ただこのプロジェクトに関しては、出来るだけ、そういうの抜きにやろうと気をつけたい。アイデアを出す。四月から駅前でやってきたストリートライブは一旦終了することになった。

Rock'in 3man 3daysというツアーをした。三浦雅也(夜のストレンジャーズ)、マサ・タケダ、おれ。その三人で三日間、和歌山、大阪、神戸を旅する。

初日はおれのホームとも言えるBS.Spica。ホストであるのにも関わらず、全く客を呼べていない状態で前日を迎えた。前日、ひたすらメールを送る。おれみたいな好きな歌を歌ってるだけのバンドマンは、何もしなくて勝手に客が来てくれるなんてことは稀なことである。もし、何もしなくて満員になるようなことがあれば、それは誰かが上手くやってくれているだけだ。それが今回のおれの役割ってわけで。メールを送る。メールの返事が来なくなった人もたくさんいる。それでも送る。虚しくなったりもする。ただ、それ以上に今のおれのライブを見て欲しいと願う。それにおれが自信を持って紹介したいミュージシャンを見てもらいたい。願いが通じたのか、小さなバーではあるが満席になった。なんとか形になり、安心する。人の暖かさに救われ、胸がいっぱいになる。あとはみんな楽しんでくれ、それだけで、腕の見せ所である。腕には自信がある。ライブ以外でなにか、嫌な思いをしていないか気を使う。エアコンは効きすぎてないか、飲み物の注文はきちんと通っているか、いい音でやれてるか。ゲストの二人にも楽しんでもらいたい。及ばないところは多々あるかと思うが、出来るだけのことはしたい。

二日目。三浦さんをニッサンのキューブに乗せて大阪に向かう。先輩である。車内ではおれのアイポッドでめんたんぴんがかかっている。話をしていると、三浦さんは日本のロックをあまり聴かないということを知った。詳しいね、と言われおれは得意になる。塚本の駅に着き、三浦さんと入れ替えで、シュガーとクラウチくんに会う。リハーサル前にスタジオに入る、バンドでのライブだ。はじめて行く塚本のスタジオは気のいいおじさんがやってるとてもアットホームなスタジオだった。冷蔵庫にあるジュース、このコップに入れて飲んでね、とそんな調子。カルピスで乾杯、真夏日である。

ハウリンバーに着いてリハーサルをしていると、三浦さん、マサくんと順にやって来た。早速セッションのリハーサルをする。夜のストレンジャーズのカバーを三浦さん本人がスタンディングボーカルで。忌野清志郎のカバーは三人で歌い分けてやる。この前は先輩にバックバンドをやってもらい、今回は先輩のバックバンドをする。充実したバンドライフだ。リハーサルを終えて、メンバー、マサくんとガード下の安い居酒屋に行く。一杯だけだよ、と始まった前打ち上げ、やはり一杯だけではすまないもので、上機嫌である。みんなライブはもちろんきっちりやる、遊びに来てるわけじゃないのだ。

三浦さんが東京で言ってたことを思い出す。三浦さんは少し前にお酒をやめた。やめてから気がついたことらしいのだが、ライブやってヘトヘトになって、やりきってやったぜって。あれ、酒でだめになってただけなのかもしれないねって。酒やめてからヘトヘトになることもなくなった。ヘトヘトにならなきゃロックのライブじゃないって、まぁそれもどうかと思うのは、おれも同じだ。

何年もやってるガルウイングス、トリオでのライブはとても新鮮で、ギターも練習の二割くらいしか弾けてないし、チューニングもガタガタだったけれど、今のおれたちかっこいいんだろうな、という自信だけはあって。そんなライブだった。

三日目は神戸。最終日なので少しは寂しくなったりするのかと思ったが、そんなことなかったのは、また近いうちに会うんだろうなという予感のせいだ。生きていたらまた会えるさ、だから生きていようねって。言葉にせず確認し合うような時間。客入りもまずまずの三日間、成功と言えるだろう。すべてが終わり、はじめて三人で肩を並べてカウンターに座る。おれはマスターのマービィさんと三浦さんの会話を聞いている。互いのサザンソウルの知識量に驚く。おーびぃらいと、さむくっくのはーれむすくえあ、おれはメモを取る。充実した音楽談義をしていたはずなのだが、気がつけば、海でおしっこするかどうかの話になっている。ほんと男ってバカだな。

そしてまたそれぞれの旅に出る。

一日あいて、おれは京都に向かう。大丈夫というバーで投げ銭のライブがあった。共演はヨシムラタカシ、ひろたうた、ミノウラヒロキ。初めて会う人ばかりで、知っているのは店主の西島衛くらいのものだ。衛さんから声をかけてもらった時に、ヨシムラタカシって沖縄にいい奴がいて、繋がり作れたらいいよね、と言ってくれていて、おれは見事にその手中にはまる。まだ探り探りの関係ではあるものの、沖縄に行くことが出来そうだ。また、和歌山にも来て欲しいものである。客はあまり入らなかったが、いい出会いがあった。再会もあった。もう一年以上会っていない友達がなんの連絡もなくやって来た。お前の歌が聴きたくなって、なんて嬉しいことを言ってくれる。引っ越ししたり、結婚したり、 みんな忙しくなっていき、会える時間が少なくなっていくけれど、同じ時代に生きているのだから、その気になれば何度でも会える。そんな年老いたロマンに浸っている。お互いの生活の話をして笑い合う。信じられないよな、お前に子供がいるなんて。

おれは今、寂れた商店街の喫茶店にいて、アイスコーヒーを飲みながら、この文章を書き終えた。表ではアーケードに入り込んでしまったハトを追い出すために、カラスの模型が括り付けられた長い竿を持ったおばあちゃんが格闘している。そこを暴走と背中にプリントされたシャツを来たおじさんが走り抜ける。ぽつんとクマゼミの死骸が落ちている。女子学生が汗で濡れた髪を乾かしながら自転車にまたがる。店主はずっとガラケーを触っている。ひどく冷房のきいた店内で、おれはホットコーヒーにすれば良かったと思っている。

どうして喫茶店は老舗になるほど冷房がきいているんだろう。

【音楽の隙間ツアー】

7月1日(金)和歌山BS.Spica 終了
7月2日(土)塚本ハウリンバー 終了
7月3日(日)神戸BROTHER&SISTERS 終了
7月5日(火)京都大丈夫 終了
7月9日(土)四日市BAR EAST
7月10日(日)和歌山ぶらくり丁商店街
7月12日(火)岩手FREAKS
7月15日(金)神戸BLUE PORT
7月16日(土)岡山CRAZY MAMA 2nd ROOM
7月17日(日)広島BAR外国
7月18日(月)出雲APPOLO
7月20日(水)大阪FIRELOOP
7月27日(水)和歌山OLDTIME
7月29日(金)京都拾得
7月30日(土)大阪FANDANGO
8月13日(土)四日市EAST
8月20日(土)和歌山OLDTIME
8月21日(日)大阪FANDANGO
8月28日(日)和歌山マリーナシティ
8月31日(水)京都磔磔

詳しくは
スケジュール
http://goo.gl/YFvNwi



Posted by ンダ at 15:57│Comments(0)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。